実る程こうべを垂れる稲穂かな

思ったことを気まぐれに書きます

映画「ベイビー・ブローカー」感想(ネタバレなし)

是枝監督の作品は「そして父になる」くらいしか観たことがないのだが、この作品はあらすじを斜め読みしただけでビビッと来た作品だった。

 

いざ映画が始まってみると、タイトルから抱いた「極悪なブローカーのエグイ話かな……」というイメージとは裏腹な雰囲気が徐々に漂ってくる。

 

物語の序盤に散りばめられた伏線が、中盤からクライマックスにかけて「自然な形で」見事に回収されていくのがとても心地よかった。

必要な部分はしっかりと描きながらも観る者の想像で補完して差し支えない部分は描き過ぎない。それがエンドロールで感じる余韻に繋がっていた。

 

さりげなく美しい劇伴も注目すべき点で、音の「引き算」をしながら作られたというその音たちは、確かに映画にそっと寄り添っていて、観る者の感情を「自然に」変化させていくことに大いに貢献していたと思う。

だからと言って完全に記憶に残らないものではなく、後からサントラで聴き直したいと思えるほどには曲としての独り立ちもしていた。

 

また、演出の緻密さにも心底感動した。

画面の端でリッチェルのエアー式のベビーバスを萎ませているのを目で捉えた時は「めちゃくちゃ細かい!」と驚いた。

育児をしている身としては育児に対するリスペクトも感じられて、その点でもとことんリアルを追求していることがよく分かった瞬間だった。

 

ネタバレなどするまでもなく、とにかく興味のある人はとりあえず観てほしいと思う。

話はそれからだ、という感じ。

登場人物それぞれに対していろんな思いを馳せることのできる、二度も三度もおいしい作品なので、鑑賞後、きっといろんな人と語り合いたい衝動に駆られると思う。